2013.06.01 12:30
葛の話シリーズ第五十五話
トム君の思い出(六)
トム君の来日の最大の目的は、日本におけるクズの分布北限を確認することであった。日本の植生学者によると、クズの分布北限は北海道の留萌と十勝支庁の広尾を結ぶ線であるとされてきた。勿論、北海道の内陸部の山岳地帯は冬季は極寒の地であるから、クズは生存できない。クズの分布域は沿岸部に限られる。トム君は北米におけるクズの北限を明らかにしているが、日本での北限も細かく調べ上げている。クズの北限は従来の学説よりもかなり北上するようである。北限近くでは、夏に伸びた茎(当年茎)は冬には株近くまで枯れ上るので、植物体はさほど大きくならない。一方、アメリカにおけるクズの西限は年降雨量によって規定されるが、西限付近では当年茎は北限の場合と同様に根株近くまで枯れ上るので、クズは大型化しないものと思われる。このようなクズの当年茎の枯れ上り現象はタンザニアのダルエスサラム郊外の年降雨量九〇〇ミリメートルの栽培試験地でも観察している。広大な大陸に位置するアメリカやタンザニアと異なり、わが国では降雨量はクズの分布の制限要因とはならない。したがって分布の西限は存在しない。
トム君は葛布にも関心があったので「葛の話シリーズ」で紹介した静岡県掛川市にある手織り葛布で有名な川出茂一商店へ案内した。ここでは大きな葛布を貰ってトム君は大喜びだった。学位論文の装幀(そうてい)にこの葛布を使いたいと言っていた。葛粉製造の見学に是非ともトム君を連れて行きたかったのだが、製葛シーズン中は私の方によんどころない事情が生じてトム君と小旅行を楽しむ余裕が見出せなかった。ところが、都合よく奈良県出身の学生がいたので、トム君は大宇陀の方へ案内してもらったようであった。(続く)
神戸大学名誉教授 津川 兵衛
創業1870年
葛の老舗がお届けする吉野本葛ギフト
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トム君の思い出(六)
トム君の来日の最大の目的は、日本におけるクズの分布北限を確認することであった。日本の植生学者によると、クズの分布北限は北海道の留萌と十勝支庁の広尾を結ぶ線であるとされてきた。勿論、北海道の内陸部の山岳地帯は冬季は極寒の地であるから、クズは生存できない。クズの分布域は沿岸部に限られる。トム君は北米におけるクズの北限を明らかにしているが、日本での北限も細かく調べ上げている。クズの北限は従来の学説よりもかなり北上するようである。北限近くでは、夏に伸びた茎(当年茎)は冬には株近くまで枯れ上るので、植物体はさほど大きくならない。一方、アメリカにおけるクズの西限は年降雨量によって規定されるが、西限付近では当年茎は北限の場合と同様に根株近くまで枯れ上るので、クズは大型化しないものと思われる。このようなクズの当年茎の枯れ上り現象はタンザニアのダルエスサラム郊外の年降雨量九〇〇ミリメートルの栽培試験地でも観察している。広大な大陸に位置するアメリカやタンザニアと異なり、わが国では降雨量はクズの分布の制限要因とはならない。したがって分布の西限は存在しない。
トム君は葛布にも関心があったので「葛の話シリーズ」で紹介した静岡県掛川市にある手織り葛布で有名な川出茂一商店へ案内した。ここでは大きな葛布を貰ってトム君は大喜びだった。学位論文の装幀(そうてい)にこの葛布を使いたいと言っていた。葛粉製造の見学に是非ともトム君を連れて行きたかったのだが、製葛シーズン中は私の方によんどころない事情が生じてトム君と小旅行を楽しむ余裕が見出せなかった。ところが、都合よく奈良県出身の学生がいたので、トム君は大宇陀の方へ案内してもらったようであった。(続く)
神戸大学名誉教授 津川 兵衛
創業1870年
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